中国人留学生が夏休みを利用して東北地方の被災地である福島県を訪れた。
留学生の多くは、東日本大震災やそれに伴う大津波が発生した当時はまだ小学生だったので、「大震災」と聞いてもあまりピンと来なかっただろう。しかし、日本からの入学通知を手にして留学が決まったその時から、放射能を浴びないか、刺身を食べたら生育に影響しないのか、という家族や学校の友人からの心配の声を聞いた。
留学生たちは、日本の土を踏んだ時から常に不安感を抱いていたという。息も吸っているし魚も気を付けて食べているけれど、常にわだかまりを抱えていた。「食べ物が大丈夫かどうか、実際に目で見て確かめたい」という想いから復興庁主催のイベントに参加した。
中秋節を前に、東京大学,早稲田大学など10数校から20人余りの中国人留学生が福島県にあるJヴィレッジにやって来た。
マグニチュード9.0の大地震が発生した2011年3月11日、東京電力福島第一原子力発電所から近かったJヴィレッジは災害対応の拠点となり、広大なピッチがヘリポートや関係車両の集結場所となった。
それから11年が過ぎ、壁にかかったいくつかの写真を除けば、災害対応時の張り詰めた光景は見当たらない。留学生の目に映ったのは青々とした芝生が広がる活気に満ちたサッカー場であり、東京オリンピックでは、選手たちがこのスタジアムでトレニンーグしていた。
被災地での3日間の滞在中、災害後に建てられた住宅地区や地震の爪痕を見学したほか、「東日本大震災・原子力災害伝承館」を訪れ、震災発生当時の被害の有様やその後の復興の様子などを学んだ。
その後、Jヴィレッジに集まって地元福島県で生活する復興に携わる方々との意見交換会が行われた。また、会の終盤には、留学生が復興庁の中見参事官に対し、「ご説明の通り福島県の農産物や水産物は非常に厳しい検査をしており、被爆量の検査基準も世界で最も厳しいとのことだが、政府が発表した数字は本物か。不正がないことを保証できるか」という鋭い質問を投げかけた。
これに対して中見参事官は、「お気持ちはよくわかる。外国人だけでなく日本人の中にも、いまだに安全性について心配している人もいる。ただ大気中の放射能のデータは、各地に設けてある観測装置によるもので、誰でも見ることができる。それに、国際機関からも、農産物や水産物について現在、政府が行っている検査やその後の対応は適正であると評価されているので、政府は隠す必要もない」とコメント。
カナダ出身である福島大学のウイリアム准教授は、東北地方を気に入って福島県で10年以上暮らしている。
中国人留学生と話をした際にウイリアム准教授は、「大地震が発生した時は福島県で仕事をしていた。あの時は揺れも津波もものすごくて、本当にこの世の終わりだと思った。そのあと食べる物もなく、避難所で1個のおにぎりを半分に分けて食べた。それから原発事故が起きて、もう本当に死ぬと思った。でもみんなで助け合って乗り切ったし、私も福島大学に残っている。今の状況はそんなにひどいものではなく、食べる物も使う物もほとんど福島産である。科学的な気持ちで客観的に被災地の復興や実際の暮らしを見れば、落ち着いた生活ができるはずだ」と語った。
湖南省出身で早稲田大学に留学しているAさんは、「来るまでは、福島は人が住んでいなくて一面の荒れ地だと思っていた。来てみてやっと普通に生活していることがわかった」と言った。
浙江省出身で東京大学に留学しているBさんは、「大学で環境の研究をしているので、福島の放射能の問題は要注意だった。ここに来る前、親も友人も放射能のことを心配していたが、実際に来て食品の検査を見たり、地元の農産物を食べたりして、むしろ安心感が生まれた。チェックがとても厳しいことが分かった」と言った。
中国人留学生は会話を通じて、日本の災害復興は他の国と違い、住居の立て直しだけでなく原発の廃炉が一番の問題であると感じたようである。数字はすべての政府が発表するもので、信頼性がどうしても疑われる。国際原子力機関の監視もあるが、それでも少しでも多くの人に理解や安心をしてもらうためには、今回の企画のように実際に見てもらう草の根レベルの活動のほか、外部の検査機関や周辺各国からの検査を一段と受け入れる必要がありそうである。
(文責・アジア通信社)
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