中国最大の都市・上海は3月末からすでに2か月近くもロックダウンしているが、地元政府によると、生活が元通りになるのは早くて6月下旬とのことである。すなわち上海は、少なくとも3か月間は「止まった状態」に置かれることになる。
一方北京では、ロックダウンには至らないまでも、大部分の地域で在宅勤務が求められているため、5月の連休から事実上の「在宅隔離」が始まり、20日間を過ぎて今なお続いている。
こうした状態がいつまで続くのかについて、ゼロコロナが堅持されている今は誰も答えを出せない。
ならば、長期間のロックダウンから一たび解放されたらリベンジ消費となるか、との考えについて、中国の経済学者は悲観的な見方を示している。
5月17日に行われた「消費の回復を促す総合施策」という検討会で、中国社会科学院評価研究院の院長である荊林波氏は、「コロナによる消費への影響は長らく続く。去年や最近の状況から見てリベンジ消費とはならないのではないか」と述べた。サービスを中心に消費の一部はもう回復が効かないという。
例えば、月に1回散髪やエステに行っていた場合、ロックダウンが3か月も続けばもう取り戻せなくなる。上海は長引くロックダウンにより、消費面を中心に市民に気持ちの面でかなりの重圧がかかり、これによる消費やその見通しへの影響は見逃せないという。
地域間の消費やサービスにも影響がある。荊氏によると、ロックダウンに踏み切った地域が中国全体で40か所以上あり、人やモノの動きが大きく制限され、流通コストが増大したことから、地域をまたがる消費に支障が出ているという。「外国での消費はなおさらであり、インバウンドもアウトバウンドも過去と比べて微々たるものになっている」とのことである。
中国商務省の流通・消費研究所の所長で、消費経済研究センターの主任である董超氏も、「コロナ状態がかれこれ2年半も続き、不確定性が高まっている中、リスクや今後の予想などが極めて不透明になり、衣食住や移動についてより慎重な姿勢になっている」と述べている。
こうした慎重な消費心理は拡散していく。「例えば、急に家のローンが払えなくなったら、消費を引き締めた上であちこち借金に走り、これで隣近所や親せき、それからある程度貯金を抱えた人までも消費に慎重になる」董氏はこう説明する。
「コロナの終息イコール消費の回復とはならず、回復しない消費もある」と董氏は言う。「2021年は一般消費材の小売総額が前年比で12.5%プラスであったが、この2年間の伸びは鈍く、今年はなおさら楽観視できない。4月はマイナス成長で、第一四半期は前年同期比で3.3%プラスであったが、物価の変動要因を除いた実質成長率は1.3%にとどまった」としている。
コロナの影響について、高所得者層は今のところ過少であるが、董氏は「建設労働者や飲食、小売業界の従事者など中・低所得者層は、所得や消費力がかなり落ち込んでいる。その数は小売業界だけでも1.56億人にのぼる。一般的に、所得の低い層は消費が所得に左右される傾向が強いので、こうなると国全体で消費が低下していくことになる」と見なしている。
中国人民銀行が実施した、第一四半期における都市部の貯蓄に関するアンケートの結果を見ると、貯蓄志向は四季連続で伸びており、貯蓄と消費の間で貯蓄を選ぶ人が半数以上となっている。董氏は、コロナのぶり返しで将来の不安への懸念やリスク防止といった考えが生まれ、お金は使うより貯めておきたい、という傾向になっていると言う。
中国政府は現在、国内市場の回復に向けて消費刺激策を考案中であるが、長びくロックダウンでもたらされた消費心理のトラウマが解消するには、数年はかかるのではないだろうか。
(中国経済新聞 山元博史)