使用済み車載電池の回収、その裏に潜む影

2022/05/20 12:16

広東省深セン市の東莞。男性が新エネ車に積まれた電池のトレイめがけてハンマーを力いっぱい振り下ろしている。装着されている電池をバラバラにするためだ。

この男性は、使用済みの車載電池を回収する工場の作業員である。社員数30人足らず、バスケットコート並みの広さの敷地内に、回収された使用済み電池が山積みになっている。

これらの電池は質の良し悪しで分けられ、いい物は再利用し、悪いものはセルに含有する金属分を精錬する業者に売却する。

中国第一財経日報によると、このような工場は全国に数万か所あり、そのほとんどはここ2年以内に設立されたという。企業の調査会社「天眼査」によると、中国には現在、車載電池の回収を手掛ける会社が3.85万社あり、このうち新規に発足した数は、2020年は前年比143%増の3321社、2021年には同じく635%増となる2.44万社に達している。ただし現在、正規の業者として政府に登録されているのはわずか45社である。

こうした乱立状態の背後には、新エネ車の急速な普及による電池や原材料の品不足といった問題が存在している。

車載電池の原材料となるニッケル、コバルト、リチウムなどの価格が2021年から大幅に上昇しており、これに伴って使用済み電池の引き取り価格も値上がりしている。今年に入り、炭酸リチウムはトンあたり50万元を超え、水酸化リチウムも48万元以上となり、いずれもこの1年間で10倍の値上がりである。莫大な利益に誘われて町工場や違法業者が雨後のタケノコのように出現し、市場価格を上回る値段で電池を引き取っている。

新エネ車の電池の容量はおおむね50~100kwhである。1台分の回収料金について、大手の業者より5000元(約9.2万円)も上回る値段で買い取る町工場も存在する。

それでも工場側は利益が十分望める。正規の業者に比べて作業状態が原始的であり、環境保護対策にほとんどお金をかけていないからである。

中国で、車載電池を廃棄するまでの年数は、営業用車両の場合は3 年~5 年、個人の乗用車は 5年~8年である。東亜前海証券のレポートによると、2030年、回収処理が必要な車載電池の数量はリン酸鉄リチウム系が153万トン、三元系が84万トンで合計237万トンに達し、回収業界の市場規模は1074億元(約2兆460億円)となるという。

巨大な市場に業者が続々と参入している中、電池を分解する際に発生する環境汚染も一段と深刻化している。

(中国経済新聞)