中国では10年ほど前、貧困や物の奪い合いなど社会問題について語り合った際は、「中国は人が多過ぎ」の一言でけりがつけられていた。「人が多い」は歴史的にあらゆる問題の根源と見られており、14億人を養うのは実に大変と思われていた。
こうした状況が今は一転し、人が減ってゆくことが心配されている。
中国の労働人口は、2015年にピークを過ぎた。若者たちが子供を望まず、両親の世代も高齢化している。日本社会を悩ませている「少子高齢化」が一段と大きな規模で現れ、2021年には65歳以上の人口が14.2%に達している。
また中国は、結婚や新生児の数が減る一方である。2021年は、婚姻数は763.6万組で1986年以来の少なさであり、ピークだった2013年の56.6%である。また出生数は1062万人で、人口当たりの出生割合は1949年以降で最も低い年となった。2017年には779万人であった人口の増加数はわずか48万人となっている。
若者たちが子供を欲しがらない理由を探るべく、北京や上海で何人かに取材した。
まずは、経済面、そして生活費の問題を挙げている。
北京で働く陳康さん(男性)は、「結婚して2年だけれど、子供ができた後のことを考えるとつらいものがある。生むことと育てることは別物で、子供をしつけるには相当の時間や労力、お金がいる。何しろお金がかかりすぎる」と言う。
陳さんは、「夫婦二人とも一人っ子で地方出身、月々の収入は合わせて3万元(約57万円)くらい。もう北京で家を買っていて、月々のローンの返済額が1.5万元(約28万円)、それと車のローンやガソリン代が5000元(約9.5万円)かかり、手元に残るのは1万元。生活はぎりぎりで、子供でもできたら貧困レベルですよ」と言う。
次に、子育てにより自分のキャリアが果たせなくなる、という。
上海のある外資系企業に勤める張美梅さん(女性)は、6年間働いて給料もだいぶ上がったけれど、それでも生活は結構大変で疲れる、と言う。「毎朝8時半に出勤して退社は夜8時半過ぎ。1日12時間せかせかと働き、その間ほとんど休み時間もない。週末も時に出勤する。結婚して3年、生活はまだまだ落ち着かないし、子供のために生活環境を整えるのは無理。それに子供に与える時間も力もない」と言う。
張さんは、「子供ができたら、外資系だから1年間育児休暇がとれるけれど、そうなるとたちまち今のポジションが誰かに取られる。職場復帰したらおそらくゼロからやり直し。自分のキャリアを考えればあまりにもったいない」と話す。
それから、社会的に子供は必要なものではなくなっている。
上海で働く徐慧さん(女性)は、32歳で未婚である。「昔は、男も女も結婚して当たり前、大きくなったら当然結婚して子供を持つべきだ、と思われていたし、結婚しない人は変人、などと言われていた。でも今の若い人は考え方が変わってしまって、結婚や出産は必須アイテムではなくなり、1人で気ままに好きなことをして暮らすようになっている。家庭や子供がない方がむしろ楽しく過ごせる」と言う。
日本では、出産一時金や児童手当の支給、医療費の免除などといった策が講じられているが、それでも出生率は伸びていない。中国政府が「3人目の出産許可」以外に若者向けの出産・育児支援をしないと、1人目も望まない現状を考えれば、出生率低下に歯止めをかけるのは不可能である。
(中国経済新聞 吉川綾乃)