モバイルネットが本格普及していなかった2010年以前の中国では、小売市場は現場頼みであり、大規模な売り場が特に人気で、利益も相当のものだった。パソコンや家電、携帯電話、家具など、どれも有名どころが販売を手掛けており、国内上場を果たした例もあった。
大手家電チェーン店における中国北部および南部それぞれの筆頭格である国美と蘇寧は、ライバルとして価格競争で市場を奪い合い、ちまたの話題にもなったが、国美は黄光裕氏が有罪判決を受けたことで敗れ去った。そこで台頭した蘇寧は2019年に最盛期を迎え、1年間で15000店舗を新設、売上高は2692.29億元に達した。
ところが、たった2年で転覆してしまう。蘇寧の2021年の決算を見ると、売上高は2019年、2020年からほぼ半減となる1389億元にとどまり、さらに驚くことに営業損失は516.75億元、経常損失は441.79億元で、432.65億元の赤字計上となってしまった。
国美が蘇寧に敗れた、というと蘇寧は勝者に見えるが、決してそうではない。2014年以降毎年、非経常的な損益を控除している蘇寧は実質赤字が続いていて、累積赤字額は610億(約1兆1596億円)となっており、国美に勝るほどのものではなかった。
社長の張近東氏も思いもよらぬ結果だった。張氏による事業戦略はそれまでほぼ正解と見られており、まずは早期に急拡大し、国美を抜いて中国の小売りチェーン店トップに立った。
通販が流行り始めるのに合わせて、ホームページ「蘇寧易購」を設立し、上場銘柄もこの名に変えて、天猫、京東に次ぐ市場シェアを勝ち取った。さらにはジャック・マー氏の支持も得て、2016年にはタオバオから283億元の出資を受けるなど、見通しは極めて明るいと見られていた。
ところが、2021年に深刻な経営危機に陥る。結局やむなく江蘇省や南京市に出資を求め、さらにアリババ、ハイアール、美的、TCL、シャオミなどの支援も集めてファンドを設立し、そこで株式16.96%分を取得してどうにか一息ついた。ただし、これによって創業者である張氏は蘇寧易購の支配権を失った。出資率の変更により張氏の持株率は17.62%に下がり、役員職や管理職を外されている。
フォーブスの世界長者番付によると、張氏は2021年は資産額74億ドルで339位であったが、先ごろ発表の2022年版ランキングには名前がなかった。ランキングの最下位は10億ドル、人民元相当で65億元である。つまり張氏は、わずか2年間で1000億を手放したのである。
蘇寧易購は現在、スーパーマーケット「大潤発」の元社長で、「ライバルはすべて倒したが時代に敗れた」との名言を放った黄明端氏が社長を務めている。
(中国経済新聞 山本博史)