キャノン、なぜ中国のカメラ工場を閉鎖するのか

2022/04/26 15:32

1月12日に中国で、「キャノン珠海有限公司」の社印入りのメッセージがネット上に公開され、かなりの反響を呼んだ。「このところ世界的にカメラ市場が急激に悪化している上、長引く新型肺炎の影響もあり、未曽有の経営危機に陥っており……慎重に検討した末、生産を終了すると決定した」と記されていた。

 キャノン中国の広報担当は中国経済新聞に対し、キャノン珠海が生産を終了し社員を解散させる段階に入っていることを認めた。ただ一方で、停止予定のラインは一部であり、具体的にいつ終了するのかは状況を見て判断するとした上、生産設備は「わずかに」残る、とも述べている。

中国からの撤退は否定

 キャノン珠海有限公司は、日本側が83・08%を、中国現地法人が16・92%を出資して、1990年1月15日に設立された。

 操業32年に及ぶ珠海工場は、キャノンの中国拠点で唯一、デジタルカメラやビデオカメラ、レンズなど映像製品を生産している。最盛期には従業員数が1万人を超え、薄型カメラについては同社の全世界販売台数の半分を生産していた。

 しかし、スマートフォンの普及でカメラ業界は大打撃をうけ、特にポータブル式や薄型タイプの販売が大きく落ち込んだ。

今回の工場閉鎖は、モバイルインターネット時代におけるデジタルカメラの敗北である。

 これを受け、「キャノンが中国から撤退」とのうわさも流れたが、これはデマである。キャノン中国によると、中国は間違いなく「大切な市場の一つ」であるとしている。

従業員数は全盛期の10分の1

 キャノン珠海有限公司について公開情報をみると、設立時は珠海市板障山下の北側に位置し、レンズとカメラのみを生産していたが、のちにプリンター、ファクシミリ、スキャナー、コンタクトイメージセンサー(接触式画像センサー)を手掛けるようになった。2013年11月27日に珠海市高新区の金鼎工業団地に移転し、15億元をかけて面積20万平方メートルの工場を建て、製品もレンズ、デジタルカメラやビデオカメラなど映像関連のものにシフトしていった。

 ホームページの沿革を見ると、一番多い時で従業員数は1万2000人、売上高は10億ドル以上に達している。

 さらに、年間の環境レポートも掲載されており、2012年の段階では従業員数8000人以上、デジタルカメラだけでも生産台数は1093万台に達していたが、そのわずか3年後の2015年には4300人、デジタルカメラの生産は483万台と、いずれも半分以下に落ち込んでいる。そして去年11月発表の2020年版では、従業員数はわずか1317人、デジタルカメラの生産は102万9000台で、いずれも全盛期の10分の1ほどに落ち込んでいる。

 会社設立から30年となった2020年には、「常に世界を繁栄させ人類を幸せにすること」を目標とし、これからも成長を続けて、共生理念という道を目指して大きく前進する、と示されていた。

 それもつかの間、この年初早々に、経営不振により操業を終了すると発表した。残された800人余りの社員も別れを告げる。各社員が大変な目に遭うことを重々承知している会社側は、話し合いで一致した上で労働契約を解除すると表明し、さらには「法定基準を上回る補償金を用意し、従業員のケアに努めていく」と強調している。最終的な処遇については、話し合いで一致した日に発表することになる。

デジタルカメラ敗れたり、「被害者」はキャノン以外にも

 キャノン珠海を閉鎖に至らしめた「元凶」を挙げるならば、それは間違いなくスマートフォンである。2000年に世界で初めてウェブカメラ付きの携帯電話・シャープJーSH04が登場し、のちの数年間でカメラ機能が携帯の標準装備になっていったが、デジタルカメラに大打撃をもたらした一番の原因はiPhoneを代表とするスマートフォンである。

 スマートフォンの豊富な機能やその後のモバイルインターネットにより、撮影やシェア、画像閲覧の方法が一変した。一般の人達にとって、スマートフォンのウェブカメラがごく当たり前の「カメラ」となり、結局はデジタルカメラの「天敵」となったのである。

 市場調査会社のカウンターポイントリサーチによると、世界のスマートフォン出貨台数は2011年には5億2100万台であったが、2017年には15億6600万台まで伸びた。その後いくらか減ったものの、2020年でも13億3100万台を数えている。その一方で、デジタルカメラの出貨台数は以前の1億2000万台から1000万台以下にまで落ち込んでいる。

 2020年以降、コロナの影響でロックダウンや旅行禁止などといった措置がとられ、観光業が世界的に落ち込んだことも、カメラ業界に追い打ちをかけた。カメラ映像機器工業会(CIPA)によると、2020年のカメラ生産台数は前年比4割減の874万台であり、この数字は2015年の4分の1で、2000年とほぼ同じである。

 業界が衰えたことで、大手各社の業績も落ち込んでいる。マンモス企業であるソニーはともかく、キャノン、ニコンという大手2社がカメラ需要の不振にあえいでおり、キャノンの決算発表を見ると売上高が3年連続でダウンしているほか、利益も2年連続でダウン、2018年の3425億円から2020年には1105億円(約62億元)になっている。

事務機器、医療設備は引き続き中国で生産

 キャノン珠海工場の閉鎖を受け、ネット上で「キャノンが中国から撤退」とのうわさが流れたが、これはデマである。キャノン中国によると、中国は間違いなく「大切な市場の一つ」であるとしている。

 キャノン中国の広報担当は、「業務としてはカメラのほか、事務機器や医療機器の製造、また半導体もある。いずれもラインナップや産業チェーンが幅広く、中国にも研究所や工場がある。大連にはコピー機や医療設備の工場、および研究所があるほか、蘇州に複合機の工場があり、また中山にも生産企業を抱えている。営業面では、医療設備や光学設備、半導体設備の販売会社を有している」と話している。

 さらに、中国では研究開発から生産、販売、およびサービスという一貫体制があるとも強調した。「コロナに見舞われて世界的に売上も利益も落ち込んだ2020年、中国では増収増益を果たした。珠海は中国における生産拠点の一つに過ぎず、製品も高級タイプではなく小型のデジカメが中心である。(閉鎖は)単に会社の戦略的プロセスに過ぎず、マーケットの状況に合わせて生産を調整していくことはごく普通の経営行為である」と指摘している。

 キャノンというブランドで最も印象が強いのがデジタルカメラであるが、会社として業務分野はかなり多岐にわたっている。最も新しい2020年の企業レポートを見ると、目下最大の業務は事務機器関連(事務用デジタル複合機、デジタルカットプリント用の複合機、レーザープリンター、消耗品)で、売上高は映像関連品の2倍以上、グループ全体の50%近くを占めている。

 映像関連の各大手がスマートフォンの勢いに押されて業務の見直しを進める中、小型デジタルカメラはあえなく「捨て子」となったのである。(中経 李佳)